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札幌家庭裁判所 昭和60年(家イ)1264号 審判 1985年9月13日

申立人 杉之原道子

相手方 金世義

主文

申立人と相手方を離婚する。

申立人と相手方との間の二女金葉子(西暦1970年7月22日生)は、申立人において養育する。

理由

1  申立人は、文主1項同旨及び「申立人と相手方との間の二女金葉子の親権者を申立人と定める。」旨の調停を求め、申立の実情として、次のとおり述べた。

(1)  申立人と相手方は、昭和41年11月28日婚姻の届出をし、未成年の二女金葉子を含め3子を儲けた。

(2)  相手方は、昭和56年3月ごろから、申立人に対し暴力を振い、生活費を渡さず、そのため、相手方の異常性格も相まつて、家庭内に争いが絶えず、昭和58年6月1日申立人は相手方と別居した。

(3)  申立人は、相手方と今後夫婦として生活する望みもないので離婚を求める。

2  筆頭者杉之原道子の戸籍謄本、相手方と金葉子の各外国人登録済証明書、家庭裁判所調査官作成の調査報告書及び、申立人と相手方に対する各審問の結果によれば、次の事実を認めることができる。

(1)  相手方は、朝鮮民主主義人民共和国を母国とする者で、昭和16年5月4日来日し、以来日本に居住しているものであるが、申立人と相手方は昭和37年ごろから内縁関係に入り、昭和41年11月28日札幌市長に対し婚姻の届出をした。夫婦間には、昭和38年1月22日長女金信姫、昭和39年6月30日長男金信哲、昭和45年7月22日二女金葉子がそれぞれ出生した。

(2)  上記事実上の婚姻関係に入つた当時、申立人は16歳で、相手方は申立人より約25歳年長であつたが、当初から生活は苦しく、相手方は気に入らないと申立人に対して暴力を振うことも多く、申立人としては、苦労の絶えない生活にいつしか相手方との離婚を考えるようになり、昭和58年6月6日家出して相手方と別居した。

(3)  上記別居後、相手方は度々申立人宅を訪れ、帰宅を促したが、申立人はこれに応じなかつた。相手方としては、別居後2年を経過した現在、申立人の離婚意思が固い以上、離婚もやむをえないと考えるようになり、離婚することに異議がない。

(4)  申立人と相手方との間の未成年の二女金葉子は、申立人と相手方とが別居した後暫くは従前どおり相手方と同居したが、約1年余を経通した後の昭和59年9月ごろから申立人と同居するようになり、今後とも申立人と生活する予定であり、このように葉子が申立人と同居することは、相手方においても了承している。

3  本件は、いわゆる渉外離婚事件であるが、申立人は日本国籍を有し、上記認定のとおり、申立人と相手方は日本国内で婚姻し、かつ、その後引き続き日本国内に住所を有していることからすれば、わが国に本件裁判管轄権があるものと解することができ、かつ、相手方の住所のある当裁判所がその管轄裁判所にあたる。

4  そこで、本件準拠法であるが、法例16条によれば、離婚の原因たる事実の発生した時における夫の本国法が離婚の準拠法になる旨定められているので、相手方の本国である朝鮮民主主義人民共和国の法律が本件離婚の準拠法ということになる。

ところで、朝鮮民主主義人民共和国では、当初認められていた協議離婚制度が廃止され、裁判所による離婚のみが認められているが、同国の「北朝鮮の男女平等権に関する法令施行細則」によれば、裁判所は当事者が到底夫婦生活を継続できないと認められるときは離婚を命ずることができる旨規定されており、更に、「離婚事件審理手続に関する規定」には、裁判所は、離婚についての当事者の合意に拘束されることなく、当事者が夫婦生活をこれ以上継続できない事情の有無と子に及ぼす影響について審理しなければならない旨規定されている。これを本件についてみると、上記認定の事実によれば、申立人は生活苦と相手方の暴力に苦しんだ末離婚を決意したものであり、既に夫婦の別居状態も2年余を経過し、当事者双方とも離婚意思を有している現在申立人と相手方との間にはもはや夫婦生活の回復を期待できないことは明らかであり、未成年の二女金棄子の存在を考慮しても、婚姻の解消はやむをえないものとしてこれを容認するのが相当と認められるから、同国の法律に規定する離婚原因があるものといわざるをえず、かつ、かかる事情は、わが民法770条1項5号所定の離婚事由にもあたるものと認められる。

5  次に、当事者間の未成年の二女金葉子の親権者指定の点であるが、法例20条によれば、親子間の法律関係は父の本国法による旨規定されているので、この点の準拠法は朝鮮民主主義人民共和国の法律となるところ、同法によれば、離婚に際して子女の養育者を定めなければならないとされるものの(「北朝鮮の男女平等権に関する法令施行細則」)、離婚後の親権者指定に関する規定はなく、従つて、離婚後も父母は子に対して平等の権利義務を有し、た、現実の養育者を誰にするのかについてのみ離婚時に定める必要があるものと解される。しかして、同国の法律上、かかる子の養育問題は離婚裁判をなすと同時に解決しなければならないとされ(「離婚事件審理手続に関する規定)」、これは申立がなくとも裁判所は離婚とともに養育者等を命じなければならないものと解されている。そうすると、本件申立にかかる親権者の指定をする余地はなく、養育者の指定をその申立の存否にかかわらず、職権によりする必要があるところ、上記認定の事実関係のもとにおいては、未成年の金葉子の養育者には、現に同人と同居し、その養育にあたつている申立人を指定するのが相当と認められる。

6  よつて、当裁判所は、家事審判法24条に基づき、家事調停委員○○○○、同○○○○の各意見を聴いたうえ、当事者双方のため衡平に考慮し、一切の事情を見て、当事者双方の申立の趣旨に反しない限度で、事件の解決のため、主文のとおり離婚及びこれに付随する養育者指定の審判をする。

(家事審判官 岩井正子)

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